Rockall Score (ロッコールスコア) 計算機
上部消化管出血における予後予測とリスク分類
評価チャート
Rockall Score(ロッコールスコア)とは?
Rockall Scoreは、上部消化管出血(UGIB)を呈する患者の死亡リスクおよび再出血のリスクを予測するために開発された歴史ある臨床スコアリングシステムです。1995年にRockallらによって提唱され、現在も臨床現場で広く活用されています。
このスコアの最大の特徴は、内視鏡検査前(Pre-endoscopy)の臨床情報と、内視鏡検査後(Post-endoscopy)の診断・所見の両方を組み合わせて評価する点にあります。総合的なスコアによって、外来での経過観察が可能か、あるいは集中治療室(ICU)での厳密な管理が必要かを判断する有力な指標となります。
なぜ上部消化管出血にスコアリングが必要なのか?
上部消化管出血は、適切な処置が行われない場合、短時間で致死的な状態に陥る可能性があります。一方で、すべての患者に入院や内視鏡的止血術が必要なわけではありません。限られた医療資源を適切に配分し、高リスク患者を見逃さないためには、エビデンスに基づいた客観的な評価(トリマージ)が必要不可欠です。
スコアの構成要素と採点基準
Rockall Scoreは、以下の5つのカテゴリーに基づいて採点されます(合計スコア 0〜11点)。
1. 年齢 (Age)
- 0点: 60歳未満
- 1点: 60歳 〜 79歳
- 2点: 80歳以上
2. ショック状態 (Shock)
- 0点: ショックなし (収縮期血圧 > 100, 心拍数 < 100)
- 1点: 頻脈あり (収縮期血圧 > 100, 心拍数 > 100)
- 2点: 低血圧あり (収縮期血圧 < 100)
3. 併存疾患 (Comorbidity)
- 0点: 重大な併存疾患なし
- 2点: 心不全、虚血性心疾患、その他の主要疾患
- 3点: 腎不全、肝不全、転移性悪性腫瘍
4. 内視鏡診断 (Diagnosis)
- 0点: Mallory-Weiss症候群、内視鏡的異常なし、出血源不明
- 1点: 他のすべての診断(消化性潰瘍、胃炎など)
- 2点: 上部消化管悪性腫瘍
5. 出血の徴候 (Evidence of bleeding)
- 0点: なし、または暗赤色斑(Clean base, Pigmented flat spot)
- 2点: 血液貯留、付着血凝固、活動性出血、露出血管(Active bleeding, Visible vessel, Adherent clot)
結果の解釈と臨床管理指針
算出した合計スコアに基づき、一般的に以下のようなリスク分類が行われます。
| スコア | リスク分類 | 再出血率(目安) | 死亡率(目安) |
|---|---|---|---|
| 0 〜 2点 | 低リスク | 〜 4% | 〜 0.1% |
| 3 〜 4点 | 中リスク | 11 〜 14% | 2 〜 5% |
| 5 〜 7点 | 高リスク | 24 〜 40% | 11 〜 27% |
| 8点以上 | 超高リスク | 41% 〜 | 40% 〜 |
低リスク患者 (Score 0-2)
若年で併存疾患がなく、血行動態が安定しており、内視鏡所見も軽微な場合です。早期の退院や、状況によっては外来での経過観察も検討されます。
高リスク患者 (Score 5以上)
再出血や死亡の危険性が極めて高いため、入院管理が必須です。多くの場合、内視鏡的止血術が必要となり、場合によっては外科的処置や血管内治療(IVR)の準備も並行して進める必要があります。
他のスコアリングシステムとの違い
上部消化管出血の評価には、Rockall Score以外にもいくつかの代表的なシステムがあります。特に「Glasgow-Blatchford Score (GBS)」との使い分けが重要です。
- Glasgow-Blatchford Score (GBS): 主に「初診時」の内視鏡検査前のトリアージに優れています。血液検査データ(BUN、Hb)を重視し、内視鏡を緊急で行う必要があるかを判断するのに適しています。
- Rockall Score: 内視鏡後の「予後予測」に優れています。内視鏡で得られた直接的な視覚情報(出血源や血管の露出状態)を加味するため、その後の入院期間や再出血の経過を予測するのに適しています。
理想的には、初期対応時においてGBSで緊急性を評価し、内視鏡実施後にRockall Scoreで今後の管理方針を決定するというフローが推奨されます。
臨床上の注意点と限界
Rockall Scoreは有用なツールですが、以下の点に注意してください。
- 静脈瘤出血への非対応: Rockall Scoreは主に消化性潰瘍などの「非静脈瘤性」上部消化管出血を対象としています。食道静脈瘤や胃静脈瘤による出血の評価には、Child-Pugh分類やその他の専用スコアを併用する必要があります。
- 主観的な判断の介入: 内視鏡所見の解釈(特に「活動性出血」や「露出血管」の判断)において、検査医の経験による施設間誤差が生じる可能性があります。
- 医療技術の進歩: 本スコアが開発された1990年代と現在では、止血デバイス(クリップ、凝固鉗子、薬剤のスプレーなど)や薬物療法(強力なPPI/P-CABの登場)が大きく進化しています。実際のリスクは当時のデータよりも低減されている可能性があります。
本計算機は医学的エビデンスに基づき設計されていますが、実際の臨床現場では常に患者の全身状態や担当医の総合的な判断を最優先してください。