PAINAD (認知症疼痛尺度) 計算機
言葉での意思疎通が困難な認知症患者の「痛み」を、観察項目から客観的に評価します
PAINAD(認知症疼痛尺度)とは
PAINAD(Pain Assessment in Advanced Dementia)は、アルツハイマー型認知症や血管性認知症が進行し、自分自身の苦痛を言葉で表現(バーバル・コミュニケーション)できなくなった高齢者の痛みを評価するために開発された、臨床的な観察スケールです。
「痛いですか?」という問いかけに答えられない患者さんの場合、痛みはしばしば放置されたり、あるいは「ただの落ち着きのなさ(BPSD)」と誤解されて鎮静剤を投与されたりすることがあります。PAINADは、こうした不利益を避けるため、五つの身体的な観察項目に基づき、誰が評価しても一貫した結果が得られるように設計されています。
スコアの解釈と臨床対応の目安
- 0点: 痛みは認められません。安静を維持します。
- 1〜3点(軽度の痛み): 何らかの不快感がある可能性があります。姿勢の調整や温熱療法など、まず非薬物的なケアを試みます。
- 4〜6点(中等度の痛み): 明らかな痛みのサインです。医師と相談し、鎮痛薬(アセトアミノフェンやNSAIDsなど)の使用を検討します。
- 7〜10点(重度の痛み): 緊急の疼痛緩和が必要です。強オピオイドの使用や、痛みの原因疾患(骨折、感染症、便秘など)の精査が求められます。
5つの観察項目:評価のポイント
1. 呼吸 (Breathing)
痛みが強くなると、呼吸数は増加し、不規則になります。肩を上下させる「努力呼吸」や、過換気、吸い込むときに音がする喘鳴(ぜんめい)がないかを注意深く観察します。
2. 否定的な発声 (Negative Vocalization)
言葉にならない「うめき声」や、何度も繰り返される短い叫び、理由のわからない泣き声は、痛みを反映していることが多い指標です。
3. 表情 (Facial Expression)
最も変化が現れやすい項目です。眉間にしわを寄せる、顔をしかめる、目を見開く(恐れているように見える)といった表情は、身体的な苦痛を強く示唆します。
4. ボディランゲージ (Body Language)
痛い場所を守ろうとする動作、拳を強く握りしめる、膝をお腹の方に引き寄せる(胎児のような姿勢)、あるいは介護者に対する攻撃的な動作も、痛みの表現である可能性があります。
5. なだめやすさ (Consolability)
ケアスタッフや家族がいかに一生懸命あやしたり、優しく声をかけたりしても落ち着かない場合、その背後には「ケアでは解決できない身体的な痛み」が潜んでいると考えます。
BPSDとの見分け方とトータルケア
認知症の周辺症状(BPSD)である「大声」や「徘徊」が、実は「膝が痛い」「腰が痛い」ことが原因だった、ということは珍しくありません。 PAINADを用いて客観的に数値を記録することで、ケアチーム全体で「この時間帯はスコアが高い」「排泄ケアの時にスコアが上がる」といった傾向を把握でき、より安全で質の高いケアを提供することが可能になります。
多職種連携におけるPAINADの役割
医師、看護師、理学療法士、介護職が「なんとなく痛そうだ」という主観で話すのではなく、「今日はPAINADで5点でした」と数値で共有することで、薬の効果判定が容易になり、不必要な向精神薬の投与を減らすことにつながります。
本計算機を活用し、患者さんの小さなサインを「適切なケア」へと繋げてください。
※免責事項:本ツールは医療・介護関係者の教育および学習支援を目的としたものであり、特定の医療診断や治療を決定するものではありません。臨床判断は必ず患者さんの全体像を把握した上で、主治医のもとで行ってください。